乃木恋運用メンバーが明かす、「ホンキで恋してもらう」仕掛け

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乃木恋運用メンバーが明かす、「ホンキで恋してもらう」仕掛け サムネイル画像

10ANTZが企画・開発を手掛けたスマートフォン向けゲームアプリ「乃木恋〜坂道の下で、あの日僕は恋をした〜(以下、乃木恋)」。2021年3月には5周年を迎え、累計ダウンロード数は900万に達しています。

丹念に練り込まれたシナリオ、メンバーの魅力を引き出すセリフ回し、オリジナルの映像コンテンツ、さらにはメンバー本人に会えるリアルイベントの仕掛けまで、従来の恋愛シミュレーションゲームの域を超え、さまざまな施策でユーザーに支持されてきました。

プロジェクトチームの思いは、「メンバーたちと本気で恋をしてもらう」こと。そして、「乃木恋」がアーティストとファンの架け橋になること。そのために、日々試行錯誤を繰り返しています。

乃木恋アプリの開発チームにローンチの裏話を聞いた記事に続き、今回は、ファンの心をつかんで離させないための仕掛けについて「乃木恋」の運用メンバーに話を聞きました。GM兼ディレクターの中川浩一、シナリオのディレクションを行う企画ストーリー部の篠田真友子、プロモーション周りの責任者である濱田雄司が、コンテンツ制作にかける思いや、ユーザーに届けるための工夫を語ります。

中川浩一
中川浩一
2017年入社 | ゼネラルマネージャー兼ディレクター
「乃木恋」のゼネラルマネージャー兼ディレクターとしてプロダクト全体を統括している。前職ではモバイルコンテンツ・ソーシャルゲーム企画開発運営に従事。
篠田真友子
篠田真友子
2018年入社 | ゼネラルマネージャー
企画ストーリー部所属。プロダクト・各企画の世界観構築およびシナリオコンテンツのディレクションを担当。ゼネラルマネージャーとして後進の育成にも尽力。
濱田雄司
濱田雄司
2021年入社 | ゼネラルマネージャー
事業開発部にて各プロジェクトのPR戦略、新規事業開発を担当。過去には映画のRR、インターネット、映像、タイアップ企画のセールス、SNSアカウントの運営などの経験を持つ。

「乃木恋」はファンとメンバーの接点を増やすコミュニティツール

「乃木恋」ユーザーの心をつかむ仕掛けとは?

中川

中川

「乃木恋」は、高校生活を舞台に乃木坂46のメンバーさんと「恋愛」できるゲームで、副題が「乃木坂46とホンキで恋するスマホゲーム」です。

ゲームのストーリーを盛り上げるうえでも重要な要素の一つが、季節ごとに開催するイベント。夏なら海に行ったり、クリスマスならパーティーをしたりと、時期などに合わせて新しいストーリーを盛り込んで配信しています。
「乃木恋」のメインビジュアル
「乃木恋」のメインビジュアル
中川

中川

そのほかにも、年に数回ほど「特別な企画」を用意しています。例えば、半年に1回ほどオリジナルの映像作品の制作。そのときどきで勢いのある監督さんにお願いして数話のショートドラマを撮影し、アプリ内イベントとして、ゲームを進めていくと先のお話が見られるようにしています。

また、最もユーザーさんが盛り上がるのが3か月に一度の「彼氏イベント」。ユーザーさんが、40人ほどいる乃木坂メンバーさんのなかから推しメンを選び、期間内にゲーム上のポイントで競い合い、最終的に選抜された100人が推しメンの「彼氏」になることができます。その特典もいろいろ用意してるんですよ。
乃木坂メンバーがレポートする、リアルイベントの様子
中川

中川

例えば、アプリ限定のリアルグッズのプレゼントとか。なかでも、メンバーさんの直筆サインが人気ですね。また、年に1回、推しメンに会えるリアルイベントにもご招待しています。イベントスペースをお借りし、勝ち残った100名の彼氏を前にメンバーさんに催しをしてもらうんです。

ただ、いまはコロナ禍ということもあり、リアルとオンラインを併用しながら開催しています。単にゲームをプレイして楽しんでいただくだけでなく、アプリをとおしてメンバーさんとファンのみなさんの接点を増やしていく、コミュニティーツールとしての側面を強化していますね。
GM兼ディレクター・中川浩一。プロダクト全体を統括している。課題解決について考えるほか、ユーザーとさらなる接点をつくっていくにはどうすればいいか検討し、企画から実装までの道筋を考えている。

乃木坂46のメンバー個々の性格や価値観を深掘りし、セリフを考える

没入感あるストーリーは、どのようにつくられる?

中川

中川

乃木坂46さんに限らず、坂道グループのアーティストを用いたアプリは他社さんも出していらっしゃいます。それらのコンテンツの多くはグループの活動が前提にあり、基本的にはそれを辿るような内容になっていると思います。

一方で、「乃木恋」は乃木坂46をキャスティングしたタイトルではありますが、もちろん現実の動きや人物の個性と連動しつつも、「乃木恋」だけのオリジナルストーリーを展開しています。つまり、独立したコンテンツとして世界観をつくっているんです。

そこで、特に重要になるのがストーリーです。「乃木恋」の世界観をより強固なものにするため、ストーリーをつくり込み、ユーザーさんの没入感を高める。そして、グループそのものというよりは、メンバーとのコミュニケーションを楽しんでもらうことに重点を置いています。そこで重要なのが、篠田率いる「企画ストーリー部」なんです。
篠田

篠田

実在するアーティストを起用していますが、「乃木恋」では「芸能界で活躍するアイドル」ではなく、「芸能科にいる高校生」としてメンバーさんを描いています。ですから、ストーリーを考えている私たちとしては、ご本人が持つ魅力に加え、「乃木恋」の世界におけるキャラクターとしての個性も大事にしたいんです。そのためには、個々のキャラクターらしさを引き出せるようなシナリオをつくる必要があります。

その際意識しているのは、それぞれのメンバーさんを知り、深く理解すること。単に上辺をなぞってそれっぽいセリフを言わせるだけではどこか表面的ですし、ユーザーさんに没入感を与えることはできません。メンバーさんの胸の内にまで思いをめぐらせ「こういったシチュエーションなら、このメンバーさんはこう言うだろう」と想像を膨らませながらシナリオをつくっています。
企画ストーリー部のマネージャー・篠田真友子。プロダクト全体の世界観の構築や、イベントのシナリオのディレクションなどを行う。
篠田

篠田

そこまで想像できるくらいメンバーのことを理解するためには、やはり入念なリサーチが必要です。レギュラー番組などでの発言はもちろん、さまざまな媒体のインタビューにもすべて目をとおします。それも単にチェックするだけではなく、一つひとつの発言を細かく分析するようにしていますね。

また、乃木恋ではご本人にアンケートも取らせてもらっています。とにかく、ご本人以上に価値観や性格を理解する必要があると思っていて……。そうじゃないと、いま、同じ時間を生きている実在の人物をキャラクターとして落とし込むときに、説得力がなくなってしまうんですよね。最近、そこらへんの分析があまりにも研ぎ澄まされたせいか、ご本人の活動と、イベントストーリーの内容がシンクロニシティーする事象も発生しました(笑)。本当に偶然なんですよ! ただ、楽曲の歌詞や、リサーチしたリアルな情報を解釈してつくっているので、重なってしまうのは当然といえるかもしれませんね。
思い出ファーストイベント
思い出ファーストイベント
中川

中川

企画ストーリー部は、後輩の育成やノウハウの伝授にも力を入れていて、すごくロジックを大切にしていますよね。社内研修があるのですが、座学だけじゃなくて、ワークショップ型のプログラムもあって本格的だな、と。IP(Intellectual Property の略。キャラクターなどの知的財産のこと)を借りている立場として、表現やストーリー構成にもすごく気を使っていると感じます。
篠田

篠田

あの研修は大変だった……。講師も自分たちでやってるので。でも、外部機関の研修では教えられないアーティストゲームならではのポイントを教えたり、講師が社内にいることで、そのまま現場の育成に研修が直接生かせたりするのは強みですね。
中川

中川

ストーリー以外では、アーティスト側のリアルな動きを、いかにタイムラグなくゲームに反映させていくかも重視していますね。たとえば、選抜メンバーは定期的に入れ替わります。ときには、卒業という大きなイベントもある。そのため、ゲーム側でもそのときどきの状況を考慮した並び順や見せ方をしていく必要があるんです。

先日、松村沙友理さんの卒業ライブが行われた際には、1日限定でゲームのトップ画面を変更しました。りんごから松村さんがひょっこりと覗き込んでいるようなデザインにしたところ、SNSでも盛り上がってもらえましたね。そんなふうに、アーティストと「乃木恋」が一緒になって盛り上がれるような雰囲気づくりをしていくことで、ファンの方にもユーザーさんにも信頼してもらえるのだと思います。
東京メトロの新宿駅構内に掲出された横幅15メートルずつの交通広告(現在は掲載終了済)
東京メトロの新宿駅構内に掲出された横幅15メートルずつの交通広告(現在は掲載終了済)
濱田

濱田

プロモーション面でも、乃木坂46ファンや「乃木恋」ユーザーさんとアーティストをつなぐことを心がけています。たとえば、今年7月に「乃木恋」と日向坂46さんのアプリ「ひなこい」が初めて共同で行ったキャンペーン企画を手がけました。

それぞれのタイトルで東京メトロの新宿駅構内に横幅各15メートル、計30メートルくらいの交通広告を掲出、メンバーさん全員のほぼ等身大を掲出したクリエイティブを作成しました。「乃木恋」「ひなこい」も各メンバーさんと恋愛ができるという部分が特徴なので、メンバー全員を掲載することに拘りました。実際、通りかかったファンの皆様にが広告と一緒に写真を撮っていただきました。、お客様とプロジェクトをリアルに繋げた企画に対する反応は大きかった印象です。
濱田雄司。「乃木恋」ではマーケティング、プロモーションまわりを担当。直近では、7月に「乃木恋」と日向坂46さんのアプリ「ひなこい」が連動して行った共同キャンペーンの企画を手がける
濱田雄司。「乃木恋」ではマーケティング、プロモーションまわりを担当。直近では、7月に「乃木恋」と日向坂46さんのアプリ「ひなこい」が連動して行った共同キャンペーンの企画を手がける

スマホゲームの域を超えた、新たな挑戦

5周年を迎えた「乃木恋」の新たな展開は?

濱田

濱田

直近の試みとしては、10月下旬のリリースに向けて、新しい映像企画の制作を進めています。先ほど中川がお話した、「乃木恋」オリジナルの世界観で展開するショートドラマです。今回はこれまでにない、チャレンジングな試みを行っています。
中川

中川

より映像とゲームがインタラクティブに融合し、没入感を高めるものになっていますよね。ただ映像を見て満足してもらうだけでなく、その映像のなかに主人公、つまりユーザーさん自身がいかに入り込めるかという点を突き詰めました。

現時点では詳細までは明かせないのですが……、設定はファンタジーです。監督も、その世界観を表現してもらえる方をアサインしています。また、本来であれば脚本は監督にお任せすることが多いのですが、今回は篠田にも監修に入ってもらい、一つひとつのセリフまで細かく調整しながらブラッシュアップしていきました。われわれゲーム運営側が、映像作品に関してここまで意思表示をするのははじめてのこと。そういう意味でも、チャレンジングな企画ですね。
濱田

濱田

しかも、今回はプロモーションにもかなり力を入れています。いつもはリリースの約1週間前にゲーム内で予告を入れる程度ですが、今回は1か月近い長めのスパンで、さまざまなメディアでプロモーションを展開していきます。そのためのキービジュアルとして、映画のようなポスターも社内のアートチームに制作してもらいました。せっかくの挑戦ですから、告知も含めてやりきりたいと考え、かなり気合を入れましたね。

いいものをつくるためにそれだけの手間をかけることを厭わないのが、10ANTZの良さでもある。もちろん、ゲームのロジックなどについては効率化を図っていますが、最初のゼロをイチにするクリエイティブのところに関しては、ものすごいこだわりがある集団です。私は今年の4月に入社したばかりですが、外部から来たからこそ、その意識の高さをヒシヒシと感じますね。

「ゲーム外での展開も考えていきたい」。オンライン×リアルのかけ合わせ

6年目を迎える「乃木恋」の新たな仕掛けとは?

中川

中川

やはり「乃木恋」は、ゲームだけでとどめておくべきコンテンツではないと思っています。ブランドとして、たしかな価値がある。ですから、まずは「乃木坂46さんの恋愛系コンテンツといえば「乃木恋」、そして10ANTZ」だと認知してもらい、ゲーム以外にも広く展開していきたいと思っています。

例えば、あえてゲームとは別に動画配信チャンネルをつくって、「乃木恋」オリジナルの映像コンテンツを配信していくとか。今回の新しいショートドラマの制作で、自分たち主導で作品をつくる過程も学べましたし、次は具体的に展開を考えていきたいですね。
篠田

篠田

同感です。6年目を迎えるスマホゲームって、まあまあ年季が入っていますよね。それでも「乃木恋」が生き残っているのは、やはりゲーム外での展開があるから。ですから、今後もゲームの枠を超えた、「乃木恋」にしかできない仕掛けを考えていきたいです。

個人的にやってみたいのは、「乃木恋」のミュージカルライブですね。恋愛ストーリーのお芝居と乃木坂46さんの恋愛ソングを組み合わせられたら、すごくいいなと思います。いわば、「乃木恋」を原作とした2.5次元ミュージカルのようなイメージで。
濱田

濱田

いまはこうした状況で、なかなかリアルなイベントが難しいですが、来年の6周年に向けてファンの方と盛り上がれるような仕掛けができたらいいなと思います。具体的な内容についてはこれからプロジェクトメンバーと議論していきたいですね。そして、次の7周年目に向かって歩き出したいです。